第1話 地震雷火事おっさん(6)


レヴレフは外に止まっているギャングの車を見ていた。拳銃はホルスターにしまっていた。
酔っ払ったじいさんを刺激してしまうと思ったからだ。
どうやって散弾銃を持ったじいさんをなだめようか考えてはみたが、いい考えも浮かばなかった。幸か不幸かじいさんの姿は家の中にはなかった。
キートは室内犬の首輪に目をとめていた。
「おまえ…パピーってのか。随分可愛い名前のドーベルマンだな。」
パピーはワンと返事をした。
フランシスが車に乗り込むと、エンジンをふかす音とともに車がゆるゆると進みだす。
すると、車のエンジン音を追うかのように銃声が響いた。
レヴレフとキートは一斉に窓のほうを見た。
焦ってハンドルさばきがめちゃくちゃになったギャングの車が猛スピードで家から遠ざかる。
「キート、依頼人のお出ましだ。」
べろべろに酔っ払ったじいさんが物置から出てきた。右手にショットガン、左手に酒瓶を持っており、かなり上機嫌のようだ。
「酒を探しに行ってたのか。」
そう言ったキートはかなり不機嫌のようだ。
散弾銃を持った酔っ払いの説得をしに、2人はしぶしぶ玄関に向かった。

ミサキは少なからずパニックに陥っていた。
「ぶっちゃけプチパニック。」
よくわからない言い回しが口から出るほどパニックだった。
車を降りていきなり酒瓶を片手に持ったじいさんに銃を向けられたのだ、無理もない。
「ん?おまえも借金取りか?」
そう言うとじいさんは銃口をそのままに酒をあおった。
その時、家から両手を上げたレヴレフとキートが出てきた。
「お、おーい…ってじいさん何してんだ。」
「じいさん、まあ落ち着こう。」
そう言うとレヴレフは一歩近づいた。
「寄るな!」
じいさんは散弾銃の撃鉄を引いた。
「きさまら借金取りは、クソったればかりだ!」
「は?」「ん?」「え?」
キート、レヴレフ、ミサキは聞き返した。
3人の頭に疑問符が浮き出た。
「金なら来週用意すると言っておろうが、このたわけもんが!お前らは飢えたハイエナじゃ!こんな老体に寄ってたかって全てを奪っていく!」
そこまで言ってじいさんは酒を一口飲み、また喋りだした。
「さっさとでていかんとうちのパピーをけしかけるぞい!」
じいさんの話はそこで終わったらしく、しばらく冬風があたりを包んだ。
「レヴレフ…こりゃかなり酔ってるんじゃねえか?」
「うむ、そのようだ。このじいさんは酔うごとに自分の設定が変わるんだ。」
「そうなのか?」
「ああ、お前がうちに就職する前にも一度これぐらい酔ってな。その時は昔猟奇殺人の罪で捕まった人という設定で、なだめるのに大変だった。」
「じゃあ今回はゆるいほうか?」
「いや、あの時は武器がしゃもじだったからな。」
「…。」
「…。」
小声での作戦会議は、より2人の士気を下げる結果に終わった。
「あ、あのー。」
と、すっかり忘れられた人質(?)ミサキが口を開いた。
「私たちは借金取りじゃないです…。だから、銃をおろしてくれるとありがたいかなー、なんて。あは、あははは…。」
ミサキはとびっきりの作り笑い(頬引き攣り度MAX)でじいさんの説得を試みた。
「そうかい、この年寄りを騙そうっていうのかい?いい度胸じゃ。」
記憶が入れ替わるくらい泥酔した人を説得するのは、どうやら無駄だったようだ。
ちなみにこのじいさん、リカン・オットは、親の後をついで農業に勤しみ、その時のお金で余生を楽しむ平凡なじいさんである。
その平凡なじいさんが、酒の勢いにまかせて銃口をミサキの額に向けた。
「あの世で反省するんじゃあー!」
引き金を引いた。

銃声がこだました。

「あの子にあの習い事はさせるべきじゃなかった。」
ミサキの父親はまだぼやいていた。
「あなた、どの習い事?」
「幼い頃からピアノを習わせたのは正解だった。音感がやしなわれた。中学の頃に茶道部を選ばせたのも正解だった。あれでわびさびの心がわかった。しかし…」
そこで一息ついて、ミサキが昨日投げたみかんを見つめた。
「高校の時に空手を習わせなければ…」

人間の鍛え抜かれた体から出るアッパーは、弾丸の初速より早い。
そんな噂話をレヴレフは聞いたことがあったが、まさかそれを目の前で確認させられるとは思っても見なかった。
ミサキの拳が散弾銃の長い銃身を捉え、跳ね上げたのだ。
「…なかなかいいパンチだ。」
と、キートはうなった。
じいさんは驚いて後ずさりしようとしたが、酒瓶を持っているほうの手を捕まれてその場に止められた。さらに銃を持っているほうの手に手刀が命中した。
じいさんの手から散弾銃が落ちた。
ミサキの目はもはや獣そのものだった。獣は、完全に武装を解除されたじいさんに、さらに蹴りをかました。しかも顔面にだ。
じいさんは、その場にのびてしまった。

「ミサキは追い詰められるとスイッチが入ったように強くなる…あれはいかん。」

ミサキは両腕を目の前で十字に切り、大きく息を吐いた。
「…押忍!」

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