1話 地震雷火事おっさん(7)


――あれ、ここはどこ?
――そうだ…たしかおじいさんに散弾銃を向けられてから、から…どうしたんだっけ?
ミサキは空想の世界を彷徨っているた。脳からの情報が途絶え、空中にいるような感覚。しかし、次第に感覚はもどってくる。
「…はっ!」
もどってきたミサキの前には、鼻血を流して倒れているじいさんがいた。
と、なにやら目の前をちらつくものがある。
「おーい、ミサキちゃーん。」
キートの手だ。
自らの拳の痛みでミサキは状況を把握した。
「あああ…またやっちゃった。」

3人でじいさんを家の中に運び、起きるのを待った。
「ガソリン、雪かき、酒、空手娘…さて、どこから話したらいいやら。」
微妙な状況の為、空気は重かった。
ミサキはじいさんを寝かせているソファの向かいのイスに座ってるが、落ち着かない様子だ。
キートは見かねて、キッチンの戸棚を勝手に開けてコーヒーを沸かした。
「まぁ、飲んで落ち着けよ。」
「ど、どうも。」
コーヒーを受け取る手はぎくしゃくしていて、まるでロボットのようだ。キートは溜息をつく。
ミサキのメガネがコーヒーで曇ったのを見てキートは思わず笑いそうになった。
真剣なのにめがねがコーヒーの湯気で曇ってる…。などと思いながら。

コーヒーはコップに半分ほど残り、ぬるくなっている。
もうメガネがくもってはいなかったが、キートは爆笑していた。
理由は、ミサキが武勇伝を語っていたからだ。
「それで気づいたらそいつ、3メートルむこうの花壇に埋まってたの!」
「だぁーっはっは!マジかよ!?」
「君なかなかやるなぁ。」
もはやじいさんはそっちのけで、3人で談笑していた。
「このときばかりは、キレて正解だったと思ったわ。」
「うむ、同感だ。」
「ははは!で、そういつどうなったの?」
「あ、あのじゃな…。」
3人はすっかり忘れていた1人の人間を見た。じいさんだ。
「わしゃあいったい…。」

じいさんは土下座していた。
「すまんかった!ほんの少し飲もうと思っただけだったんじゃ!」
「じいさん落ち着けよ。」
「私だっていきなり殴っちゃったんだから、気にしなくても…。」
「いやー、わしが悪いんじゃ!何かおわびをせんと気がすまん!」
そう言ってじいさんは深々と頭を垂れた。
「ううむ…そうだ、じいさん。」
「な、なんじゃ?」
レヴレフはいい事を思いついたとばかりに喋り始めた。
「何かおわびをしないと気がすまないなら、ちょっと頼みがあるんだ。」
「何でも言ってくれ。わしにできることなら何でもする。」
「実はこの子の車、ガス欠しててね、少しでいいからガソリンを譲ってくれないか?」
じいさんは土下座からいっきに跳ね起き、立ち上がった。
「なんじゃと!」
しまった、ちょっと欲張りすぎたか。とレヴレフは思った。
「お安い御用じゃ!満タンにしてやるわい!」

「ありがとうございましたー!」
ミサキはガソリンの入ったタンクを車に乗せ、すっかり上機嫌で手を振った。
「なんのなんの。」
じいさんは少し申し訳なさそうに手を振りかえした。
「では、これからもchopsをよろしく。」
レヴレフは仕事後に必ず言う決まり文句を言うと、もと来た道へ車を走らせた。
しばらく走ると、レヴレフは異常に思ったことを口にしてみた。
「ところで…ヘッドレストが無いんだが。」
運転席のヘッドレストは、根元の金具が折れてどこぞへ消えていた。
みさきの脳裏にキョーコとの電話後の行動が映し出された。
「あ、えーと…すみません。」
キートはまさかといった感じの表情で振り返った。
運転中のレヴレフまで振り返った。
「その、あの、ははは…。」
どこをどう説明していいやら、ミサキの額から冷や汗が流れ落ちた。

「ふうむ、そういう事か。」
車は、ミサキの車が遠くに見えるあたりに来ていた。
そこでいきなりレヴレフは車を止めた。
「人間誰にでも間違いはある。」
と、意味深に言った。
許してくれたのかどうかわからない返事に、ミサキは首をかしげた。
すると、車がまた走り出した。
「そう、誰にでもあるんだ。」
ミニがどんどん近づいてくる。と、ミサキは近づくにつれていやな予感がしてきた。
何かが違う。そう感じた。
さらに車が近づく。
そう、レヴレフがドリルで穴をあけたナンバープレートが見えるくらいに…。
「あ、あ”−!」
「もう一度言おう、間違いは誰にでもある。」
車はミサキのミニの前に止まった。

『キュキュキュ、ドルルン』
ミサキのミニが再び鼓動した。
ガソリンを入れてもだめだったが、バッテリーをレヴレフの車とつないで充電したらやっとエンジンがかかったのだ。
「ほんと、色々ありがとうございました。」
ミサキは深々とおじぎをして、車の窓を閉めた。

それを合図に、男二人は接続していたコードをトランクに入れ、車を反転させると白い荒野に帰っていった。
男は背中で語るもんさ、明日は明日の風が吹く。
そういうもんさ。

そう、俺たちは食えない奴ら ――Chops




「で、なんでミサキちゃんがここにいる訳?」
キートはあごが外れんばかりに驚いた。
Chopsの事務所の前にはレヴレフの灰色のセダンと、ミサキのミニが停車していた。
「あのー、実はルームシェア先の友達がいきなり彼氏とラブラブでかくかくしかじかなわけですよ。」
「うーん、それで?」
レヴレフはまだ彼女の思惑がつかめていなく、聞き返した。

「つまり、ここに住ませてほしいんですよ。もちろんただとはいいません、働きますから…。」

レヴレフもキートも仰天した。
「ま、マジで!?」
「うーむ、いいぞ。」
「即決かよ!」
聞いてまもなく決定したレヴレフにキートはツッコミをした。
「ほ、ホントですか?ありがとうございます!」

「じゃあ改めて自己紹介といこう。私はレヴレフ、ここの責任者だ。仕事は私から言いつけるから都合のいいときに片付けてくれ。」
「ったく、いきなり後輩が増えやがった。俺はキート、レヴレフの使いっ走りだ。先輩としての手本は見せられないと思うけど、まぁよろしく。」
ミサキは2人と握手を交わした。
「私は、ミサキっていいます。とりあえずよろしくおねがいしまーす。」


いきなり2人から3人に増えたChops。そんなこんなで第一話はおしまい。

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