リゴの小冒険 最終回

「リゴさん、着きました。」
運転手の声で、私は現実世界に引き戻された。
車から降りると新しい給水の説明会場を見上げた。
ルフト学園。小学部から高等部まである学園、私の母校だ。
廊下を歩き中央広場に出ると、すでに大勢の人が集まっていた。
これだけの人数に私の新しい給水を披露するのかと思うと、急に緊張してきた。はたして私の給水は世間に受け入れられるのだろうか?
私は案内されるままにステージ横の椅子に座ると、まもなく発表会が始まった。
司会兼給水の説明役は、開発仲間のトンだ。私は人前に出ると上がってしまうので任せたのだ。
トンは軽い挨拶を済ませると、新しい給水の説明に移った。
「えー、この新しい給水『湧水』は、従来の給水に比べ非常に頑丈でエネルギー効率が良く、更にメンテナンスフリーで遠隔操作が可能だという正しく夢のような造河機(ぞうかき)です。
万が一故障があった場合は自己制御回路が感知して、一部の機能を停止させるなどして破損事故を防ぎます。
その上遠隔操作室で一日3時間程度の微調整を行えば正常に作動するので、整備者を付きっ切りにしておく必要はありません。」
人々から感嘆と賞賛の声があがった。
私は、自分の研究が世間に認められたのだと実感し、胸がいっぱいになった。
「それでは、湧水の開発者、リゴ・ターストンさんからお話があります。」
ステージに上がる直前、私は自分の愚かさをのろった。
スピーチ用に作ったメモが無い。家に忘れてきたようだ。でも喋らないわけにはいかない。
「えー、こんにちわ。リゴ・ターストンです。」
いい事を思いついた。下手に気取った話をするより…
「私が給水を造ろうと思ったのは、この学園に入る前の幼少の頃でした。そう思ったのは、いつも遊んでくれていた兄さんが遊んでくれなくなったからです。兄さんは給水の整備者だったんです。
もっと遊んで欲しい、そんな子供のわがままだったんです。
ですが、高等部を出る少し前に、その意味は変わりました。」

********************

僕の名前はリゴ・ターストン、18才。
大学の入学試験の結果が張り出されるのを待ってそわそわしているところだ。
「よっ、結果出たか?」
「エアロ、どうしてこんな所に?」
今エアロは、ミュージシャンになるために色々頑張っている。
エアロとは給水の事でしばらく喧嘩してたけど、僕がエアロの冒険の意味を理解して仲直り、本当の意味で親友になった。
「お前の合格結果が気になったからに決まってるだろ?で、どうなんだ?」
「それが、まだなんだ。もう予定の時間を10分も過ぎて…あ!」
係の人が、大学前のボードに紙を貼り出した。
ずらっと受験番号が並んでいる。
僕の番号は…
「あった!」
二人で顔を見合わせてニヤッとして、から報告に向かった。
デリオ兄さんに報告しに行くんだ。
給水造りをいっつも応援してくれてる兄さんに。
給水のある山に着いた。
最初に異変に気づいたのはエアロだった。
「リゴ、おい、池から水が湧いてないぞ。」
池の表面は平らで波紋一つ無い。
螺旋階段に通じる入り口が鉄扉で閉じられている。
これはとても分厚くて、人の手では閉められないようになっている。
僕は体から何かが失われたような感覚に陥った。
「給水は破損事故が起きた場合、被害を最小限に抑える機能がついてる。」
給水のタンクが破裂した。
それによって鉄扉が閉じて水が外に出るのを防ぐ。
溢れ出した水は制御室内部にとどまる。
中にいる人間は当然…

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「私はその時、人生の道標を見失ったんです。助けるべき人を失ったんです。
親しい人の死と目標の無くなったことで、私は大学で1年間を抜け殻のように過ごしました。
そして大学に入って2年目になる頃です…」

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僕はリゴ、20才。大学を留年した。
そんな事どうでもいい。
『ドンドン』
「おーい、リゴいるかー?」
あ、エアロだ。
『ガチャ』
「よっ、元気か?」
「…元気だよ。」
「ふう、相変わらずだな。」
エアロはミュージシャンとして今も頑張ってる。小さいライブイベントとかも開いてるらしくて、インディーズでは結構人気のある方みたいだ。
僕は…
「お前、家にばっか居ると腐っちまうぞ。」
「ああそうだね、そう思うんだけど…やっぱり僕はダメだよ。
夢だの冒険だのって言ってたけど、結局デリオ兄さんに依存した独りよがりだったんだ。ホンットテンション下がっちゃうよね。」
エアロは真剣に聞いてくれていた。それだけがちょっと心の救いになった。
「まあ、正直そのへんもうフッ切ったほうがいいんじゃねえか?
確かにデリオ兄さんは行っちゃったさ。けどよ、お前のせいじゃねえんだよ。だからお前はそういう事に縛られずに、自分の冒険を探し始めたほうがいいと思うぜ。」
「…そうかもね。」
しばらく沈黙が続いた。
間に耐え切れなくなったのか、エアロがポケットをあさってなんか紙を取り出した。
ライブのチケットだ。
「これ、こんど近くでライブやるんだ。よかったら来てくれよ。」
「絶対行くよ。」
それを渡してエアロは帰っていった。

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ライブ会場には人がいっぱい居た。なんだ、エアロすごいな。僕が知らない間にこんなに人気が出てたなんて。
ちなみに僕は一度もエアロのライブを見た事は無い。
席は無しでオールスタンディング。どんなライブをするんだろうか?
と、エアロとバンドのメンバーがステージの袖から出てきた。
「どーも、スピードコンプです。初っ端から飛ばしていきます!行くぜ、『ダブルアクション』!」
激しいドラム音と共に激しいサウンドが会場を包む。
エアロのバンド『スピードコンプ』は、ロックバンドだった。
最初はうるさいと思ったけど、雰囲気になれてだんだん楽しくなってきた。
「えー、最後は静かな曲で行きます。
僕の親友に捧げます、『リトルリバー』。」
前奏の間、エアロはチラッと僕の方を見た。

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「その時のエアロの歌は、私に向けられたメッセージそのものでした。
歌詞の内容は、彼のCDを買っていただければわかるんですが、歌詞の中に出てくる『少年』とは僕の事です。
夢を失った少年が、途方にくれながらも歩き出す。そんな歌です。」
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『ドンドン』
「おーい、リゴいるかぁー?」
「はーい。」
『ガチャ』
「昨日のライブ、どうだった?」
「あんなにハードな音楽やってると思ってなかったからびっくりしたよ。」
「あれが、俺の冒険だ。」
「エアロ、歌ありがとう。僕、冒険が見つかったよ。
僕、やっぱり給水つくるよ。」
「えっ?」
「あの歌は、新しい冒険を探せって意味の歌だったんだろうけど、
僕の冒険はまだ途中なんだよ。
これからも給水が人を縛り続けるかぎり、誰かが僕たちと同じように悲しんで、デリオ兄さんみたいに苦しむんだ。
そんなの、あっていい事じゃない。
戦争を嫌って給水を造った人だって、きっと同じような事を思ったに違いないよ。
僕は冒険を、続けるよ。」

********************

「私はそこから、給水に本気で挑みました。
私にとって給水を造るのは、子供のわがままから、決意に変わりました。
遠隔操作機能を付けたのも、一日3時間の微調整で作動可能にしたのも、縛られる人を居なくするためです。
そして苦節40年、私の長い冒険は終わりを迎えました。
…さて、私の親友エアロを今日招待する予定だったんですが、彼は来ることが出来ません。
何故なら、今国境を越えてツアーを行っているからです。彼もまた冒険を成し遂げたのです。
皆さんも何かを考え、探し、発見したら、冒険を成し遂げたと胸を張ってください。
以上で私の話を終わります。」

********************

私は湧水のある場所、昔給水のあった場所の近くにある石造の前に居る。
『偉大なる整備者 デリオ・リバネオ ここに眠る』
デリオ兄さんの石像の前だ。
「もし新しい給水が出来たら、兄ちゃんにプレゼントあげるよ!」
と言ってから40年、約束を果たしに来たのだ。
「よっ、元気か?」
「…エアロ!久しぶりじゃあないか。ライブツアーはどうしたんだ?」
「次の会場はここから近いんだよ。それに、お前の結果を見に来たに決まってるだろ?」
「覚えていたのか。」
私は、プレゼントをデリオ兄さんに差し出した。
デドン隊長の冒険というタイトルのついた絵本。
子供の私が頭の中で言った
「兄ちゃんが自由になったら、まずはこれをよんでもらうんだ!」
おかしを詰めた小さな鞄。
「そして、ぼくとエアロと兄ちゃんで冒険に出るんだ!おかしいーっぱいもって!」
そして、『湧水』で汲んだ水。
「それできねんにぼくのつくったきゅうすいからでたみずをもってかえるんだ!」
こうして私の一つの冒険は幕を閉じた。
すると、私とエアロは顔を見合わせた。物を供え終わったからではない。背後に気配を感じたからだ。
振り向いた先には
「よくやったな、リゴ!」
デリオ兄さんが水の上に立っていた。
「に、兄さん。」
「エアロも頑張ってるな!二人とも隊長に任命だぞ!」
「兄さん、ずっと見てたのかい?」
「ああ、ずっと見てた。まあ、あっちに行けなかっただけだけどな。」
兄さんは空を指差して笑った
「二人ともいい冒険をしたな。でも、忘れるなよ。考えて、探して、発見するのが冒険なら、
毎日が冒険なんだ。
やっと、俺の冒険も終わるみたいだ。」
「兄さん、兄さん…会ったら色々言おうと思ってたのに、何も言葉が出てこない。
でも、これだけは言える。僕はやったよ。」
「兄さん、途中で給水の勉強やめてごめんよ。でも、俺自分の夢がかなったんだ。」
兄さんは満面の笑みを浮かべた。
「リゴ隊長、エアロ隊長、俺の冒険の終わりだ。笑って見送ってくれよ。
プレゼントありがとうな。」
兄さんは空に上っていった。
私達は無理でも作ったのでもなく、本当の笑顔で兄さんを見送った。
さあ、冒険の始まりだ。

〜おしまい〜

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