第1話 地震雷火事おっさん(4)


こんな真冬に家の玄関が開けっ放しになっているのは異常だ。しかし、じいさんの家の扉は全開だった。
じいさんの家の中に遠慮なく風が雪を運んでいる。雪の積もり方を見ると、開けてからかなり時間がたっているようだ。
「まさか、じいさんゴダイ一家の奴等に何かされてるんじゃ。」
キートは隣に話し掛けたが、そこには誰もいなかった。レヴレフはすでに玄関に入っていた。
「その可能性は十分ある、とりあえず中に入るぞ。」
いつのまに移動したんだ?という質問をキートはしようとしたが、よくよく考えると間抜けな質問だと思い後に続いた。

家の中に足を踏み入れると、右の壁に無数の丸い穴があいているのが見えた。
「これはショットガンの弾痕だな。径からして小動物の狩りの時に使う弾だ。ここに弾痕があるという事は…左の部屋か。」
レヴレフはそう言いながら懐の銃に手をかけた。
「キート、最悪の事態に備えろ。」
キートはやれやれといった感じでポケットから両の拳を引き出した。

ミサキはコートのポケットをあさっていた。
「たしか車で携帯充電できるコードがどこかに…あった。」
ミサキは携帯にコードをつなぎ、説明書どおりに車につないだ。
「これ盗電っていうんだっけ?ま、いっか。」
携帯を開き、友人のキョーコへ電話をかけた。
「うっかりしてたなぁ、キョーコに電話で許可取らないと完全な家出ができないんだった。」
ルームシェアの話し合いはほぼまとまっていたが、来る前に電話をいれるように言われていたのだ。
『トゥルルル…トゥルルル…ガチャ』
「あ、もしもしキョーコ?」
『はいはいミサキ、どうしたの?』
「実はさぁ、ルームシェアの件なんだけどー。」
『えっ、もしかして許可とれたの?』
(やばいな、嘘つくか。)「うん。なんとか押し切ったよ。」
『あー…』
キョーコの声のトーンが下がった。頭をポリポリとかく音まで聞こえる。
言ったとたんに喜んでくれると思っていたミサキは困った。
「なに?何かあった?だめなの?」
沈黙。通話料金10円分の沈黙が続いた。
『私ね、彼がいるでしょ?』
「うん。」
嫌な予感がする。
『彼と付き合って1年もたったから、そろそろ大学生活も中盤だしそろそろ将来のことが気になり始めてて…。でね、でね、今すっごい大切な時期だって気がするの。』
ミサキは後部座席に寝転がり、足を組んだ。
『私ね…もし一生をともにするなら今の彼しかいないと思ってるの。言っておくけどこんな事、ミサキにしか話せないんだからね!』
話がルームシェアから遠ざかり、のろけ話になってきた。
「あー、うんうん。」
ミサキはうっとおしくなってきたので適当に相槌をうった。
『彼って、ちょっとわがままなんだけどすっごく優しくて
<<<<<<<<中略>>>>>>>>
なのよー!』
ミサキはさすがにうんざりしてきたので、話題がずれているのを指摘することにした。
「うん、あのさぁミサキ。」
『でね…えっ、何?』
「結局私ルームシェアできるの?」
『…』
また通話料金が10円課金された。
『その…私、彼と一緒に住みたくなって。』
長いのろけ話から大体察しがついてはいたものの、実際言わるとやはり落ち込むものだ。
『それで、ルームシェアの件…』
「うん、わかった。」
これ以上聞くとさらに落ち込みそうだったので、話を切った。
「彼とうまくいくといいね。じゃ、お幸せにー。」
ついでに電話も切ると、次は堪忍袋の緒が切れた。
「ふざけんじゃねー!もっと早くに言っとけよ!イヤミかくそっ、勝手に乳繰り合ってろ!」
怒りに任せて運転席の頭部を殴った。

左の部屋に進入すると、男が1人倒れていた。
ゴダイ一家のフランシスだ。
「なんでこいつ倒れて…なんか臭うな。」
フランシスのズボンにシミができていた。どうやら小便をもらしているようだ。
レヴレフは横にしゃがみこみ、脈をとった。
「…息も脈もある。気絶しているようだ。」

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